伊坂 「今回の山下さんの映画って「空気感」ですよね。事件は何も起きない。僕は脚本を読んだあとで小説を書いたんですが、最初、その空気感に引きずられちゃったんですよ。僕の本って伏線らしきものがあって、ちょっとした驚きがラストにあるというのを求めてる人が多いみたいなんですけど、最初に書いたやつはそういうのがまったくないんです。空気感を楽しめばいいいや、と思って。でも、完成した山下さんの映画を観て、映画だから空気感だけでもいいんだな、と思い直して。小説は理屈だよなぁと前から思っていたし、だったら未来社会の背景なんかは、僕のほうで説明すればいいやと。」
山下 「それにはすごく助けられたし、そういう関係で作ろうというのがありましたよね。」
伊坂 「映画だけ観て意味がわからないと言われても、説明は僕の小説でやっているわけだから。」
山下 「いや、本当にそういう感じ。実は、映画でドラマっぽいものを撮るのをやめたのも、単体だけで意味が出るものにはしたくないなぁという気持ちがあったからなんです。今回も、小説と映画とピーズの音楽がちゃんと交ざってひとつの作品になる、そんな感じにしたかった。」
こだわり抜く山下監督と、一緒に仕事をする人との関係性を大事にする伊坂さん。全然違う仕事に対するスタンスについて
伊坂 「僕は人とすごく合わせられるんです。結構譲れるんですよ。たまたま浦沢直樹さんの対談を読んでいたら、「9割5分まで商業主義に譲っても、5分の魂があれば日和った作品とはならない」って仰ってて、僕もその考え方にかなり近いんです。「あ、それ止めます」とか、ある程度までは譲れて。でも、絶対譲れない部分もあるんですね。ただ、他の人と比べたらすごくちっちゃいとは思うんですけど。」
山下 「でも、そこが譲れなかったら成立しませんよね?」
伊坂 「成立しないと思うんですよ。ただ、その譲れない部分が何かというとわからないんですけど。逆に、9割5分譲っても、僕らしさが出せると信じたい気持ちも強いんです。僕は、仕事って信念と義理しかないと思ってるんですね。仕事を選ぶ時も、信念を持っている人か、お世話になった人と恩返しの気持ちで仕事をするか、どちらかだと思っていて。信念のある人が報われるほうが、やっぱりハッピーだと思うので、そういう企画は好きですよね。」
表現者としてロックとリンクしてる部分ってどういう点か。
「たぶんそれを知りたくて『ロックンロールとは?』っていうのを書いたんですけど、結局わかんないんですよね。でもさっき言った『何で俺だけ圏外なんだよ』っていう気持ちはなんとなく根底にあるような気がしていて。あと僕はパンクロックが好きだったので―何かに立ち向かうことって、幼児性だと思うんですよね。『世の中をぶっ飛ばせ!』って、大人からすると『いろいろ社会のしくみがあってね』みたいになるし、とりあえず何か言っちゃうってのは幼稚な部分があるけど、幼稚でいいじゃないかって」
自分が小説を書く時にやっぱりそういう部分はでるのか。
「論理的なことよりも、そういうものを優先して書きたくなっちゃいますね。社会のしくみはこうだよ、でもこう思ってるじゃないかって。フィクションなんだからいいじゃんって」
映画化について
「こういう展開や場面になったんだとか、この人が演じているのかと、作られた作品に対する興味のほうが強いので、原作者として“自分の作品が壊される”といったストレスはあまり感じたことはありません。部分的には各作品思うところはありますけれど、それは僕の映画の趣味の問題だと思うんです。例えば『アヒルと鴨のコインロッカー』の場合は、僕の趣味に近い映画だった。中村義洋監督も会ってしゃべってみると世代が近いし、好きな映画も似ていましたから。またあの作品は、バジェットがあまり大きくなかったことが良かったと思います。バジェットが大きくなると、いろんな人に映画を伝えたいから原作を変えざるを得ない部分が出てきますしね。ただ僕の趣味に合わせれば、映画を作る皆が幸せになるかと言えば、そうではないでしょうし。僕自身が映画は好きですから、いい作品になってくれればいいといつも願っているんですけれど」
伊坂 「僕が描いた死神はクールですよね。人間に同情しない。でもそれでいいかなあ、と思ったんですよね。死ぬことは負けではないんじゃないかな、と思って。」
金城 「だから伊坂さんの死神の判定はほとんど全部、死ぬことが「可」なんですね。」
伊坂 「そうそう、それはそうしないと。助けることがハッピーになるというのが根底にあってはいけないので。現実に死んでしまう人はたくさんいるのに、死んだことはダメなことで、負けになっちゃうんだよ、というのは、やっぱりつらいじゃないですか。僕は全部判定が「可」で、死ぬとしても、でもその人のそれまでの生活は良かったかもしれない、というのをやりたかったんです。僕は自分の本のなかで「人間は死を棚上げにしている」という言葉を使っているんですが―。」
金城 「死を棚上げに―?」
伊坂 「人はいつか確実に死ぬのは決まっているけれど、じたばたしてないじゃないですか。明日死ぬかもしれないのに、それはどっかで忘れようとしている。というより、忘れているんですね。もし、僕が死ぬということを完全に理解していたら、僕は仕事をしないで、奥さんと子供とずっと一緒に暮らしているような気もするんですよ。でもそうしてないのは、どっかで明日は死なないだろうと高をくくっているんだと思うんです。どうにか折り合いをつけて生きているんだろうな、と。」
金城 「僕は、明日死ぬかもしれないという気持ちで生きていなさい、と言われたことがあります。いつ死んでも大丈夫なように生きる姿勢が大切だと。」
『あるキング』はどういう発想から生まれたのか
「まずひとつは、スティーヴン・ミルハウザーやジョン・アーヴィングといった作家がよく書いている、異常な人の人生をたどる小説が、ぼく、すごく好きなんですよ。たとえば、機械仕掛けのオモチャをつくる異常な天才の一生とか・・・・・・。
あと「こういうタイプの作品って、いま本屋さんにないから読みたいな」というところからつくることが結構あるんです。『ゴールデンスランバー』のときも、ああいう冒険小説みたいなのが最近あまりないなと思って。それと同じような発想で・・・・・・。日本の作家でこういう、人の半生を書く小説って最近あまりない。しかも異常な人、変なインテリみたいな人物を書きたいというのは、ずうっと思ってたんですよ。海外だとそういうテーマでわりと思いつくんですけど、日本ならではの分野ってないかなっていろいろ考えていくと、野球って意外に日本っぽい文化じゃないかと。大リーグと日本の野球の違いがあって、甲子園もあるし。なので、野球選手の半生というのを書こうと。タイトルに「ある」って付くのは、ダルデンヌ兄弟監督の「ある子供」という映画があるんです。それを真似て「あるキング」。キング、王様。すごくいいなというのがまずタイトルとしてあったんです。結局、ホームランキングになる男の話なんですけど、それは特に野球小説を書きたいんじゃなくて、伝記を書きたくて野球を使うみたいな感じなんです。」
「逃亡劇って最初はワクワクするんですが、後半になるにつれて、きっと真犯人を探すんだろうなって、展開が読めてしまうのがつまらない。だからこそ序盤で“この小説の主題は犯人探しではありません”と宣言したんです。ケネディ暗殺をモチーフにしたのも、未だに真相が明らかになっていないということを分かりやすく伝えるためです」
映画、漫画、小説、そのメディアならではの表現方法と感じる部分について
【映画篇】
『グエムル』について
「ウォークマンを聴いている女の子がいて、そこだけ静かな音楽が流れているんですけど、後ろから怪物がガーンて来るとか、あれはもう、ほかの媒体だとうまく表現できない。ソン・ガンホが娘を連れて逃げようとしたら別人だったというシーンとか、小説でも、まあ、娘ではなかった、って書けるんですが、あんまり興奮はしないですよね。説明はできるけど。」【漫画篇】
『スラムダンク』は、僕がいろいろ言うことでもないんですけど、試合中、会話が一切消える有名なシーンがあります。漫画だからできる、というと、やっぱりあれを思い出したんですよね。あのシーンは当然、映像で音なしでやってもいいし、できると思うんですけど、この人はこの瞬間にこういう顔をしていたんだ、こういうプレーをしていたんだというのは、絵が止まっているから、より何かこっち側に伝わってくるような気がします。」【小説篇】
佐藤哲也さんの『ぬかるんでから』は、僕が解説を書いたので、説明しやすいです(笑)。これは解説に書いたままなんですけど、例えば、「約束した」じゃなくて「確約した」という言葉を選ぶだけで何かおかしい感じがしますよね。「妻に約束して」というよりも、「妻に確約して」というほうが何か不思議なニュアンスが出てくる。言葉を選ぶということで、何かユーモアや不思議な感じが出たりするというのは、やっぱり小説ならではだなと僕は思うんですよね。
「要約できない部分にこそ、大事なものがある。何気ない会話や記憶の断片、個と個との結びつきから生れる小さな喜びが、僕らの人生を形作っていると思うから。」
Theピーズの“実験4号”をモチーフにした短編小説について
「まず僕がTheピーズが好きだっていうのがあって、その上で山下監督と一緒に何かできるっていうのも、すごく嬉しかったんですよ。斉藤(和義)さんのときもそうだったんですけど、自分が好きなものだと、やっぱり刺激を受けるんですよね。僕は小説に関しては負けず嫌いなので、もう俺が一番面白いって思いたいぐらいなんですけど、そういう他の場所でやってる人の仕事を見ると、やっぱり嬉しいっていうか、じゃあ俺も頑張んなきゃって思ってそれに対抗して何か書くのが楽しくて。それがたまたま、今回の僕の短編には『ロックンロールとは何か』っていう裏テーマがあって、それにTheピーズを絡めて書いていく話なんですけど」